「すごい本を読んでしまった…!!」
ひきたよしあきさんの『印象に残る・心をつかむ・YESをひき出す 「スルーされない人」の言葉力』を読み終えた私の感想がこれです。
お気に入りの腕時計が止まってしまい、ショッピングセンターの時計屋さんで電池交換をしてもらっている間の、ほんの20分間の暇つぶしに入った書店でこの本と出合いました。
まず表紙の少年のイラストが可愛く、どことなく息子に似ていたので思わず手に取りました。
そしてパラパラっと読んでみると、その本の内容が「言葉力」をスキルアップさせるものであり、
それが物語風に進行していることがわかりました。
物語の主人公は、自己主張が苦手で会社でも存在感のない「中田晴」。大手スーパーのバイヤーですがプレゼンはいつも通りません。
そんな晴のもとに、大学1年生の時に亡くなったはずの愛犬エドが現れ、晴を「スルーされない人」へと成長させていく、そんなストーリーでした。
著者のひきたよしあきさんは、博報堂に入社後、CMプランナー、クリエイティブプロデューサーとして37年間数々のCMを手掛けてこられました。ほかにも朝日小学生新聞にコラムを寄稿されたり、大学や社会の様々なところで自分の思いを「言葉」にすることの大切さや、その方法を伝えています。
「むずかしい言葉は、伝わりません。
借りてきた言葉は、伝わりません。
自信のない言葉は、伝わりません。
感情だけの言葉は、伝わりません。」
これは、ひきたさんのホームページ(https://smilehikita.com/)に掲載されている一文です。
子どもから大人まで、様々な人に向けて発信されているひきたさんならではの言葉だと思います。
では、誰にでもわかりやすく、自分の言葉で、自信をもって、自分の思いを伝えるためにはどうすればよいのでしょうか。
本書は「言葉力」を高めるメソッドがstep1からstep5にわたり、晴の24個のクエスチョンに、エドが回答していくという形で紹介されています。
stepとstepの間に物語が挿入されているので、徐々に成長していく晴の様子が頼もしく感じられ、晴と同じく言葉力に自信のない私は最後まで一気に読んでしまいました。
今回は step1の、晴の3つのクエスチョンに対するエドの回答をご紹介します。
自己紹介が苦手、人に説明したり、発言することが苦手、という人にぜひ読んでほしい一冊です。
step1「自己理解」を深めれば、相手から軽く扱われない
Q1「どんな話をしても誰の印象にも残らないんだ」
探してきた「ビール酵母たまねぎ」をリモート会議で上司の部長にうまくプレゼンすることができず「存在しないに等しい」と言われてしまった主人公の晴。
どうすればみんなの印象に残るようにしゃべれるのか愛犬エドに問いかけます。
「ビール酵母で育てたたまねぎ、マジうまいっす。甘いつぅか、もっと奥行があるっていうか」
普段の生活で、主語のない受け身で省略形の言葉を使っているうちに、ブツ、ブツっと思いついた単語だけが並ぶ会話をしていませんか?
リモート会議での晴の発言は、主語のない「私」のいない言葉なので、どこか人ごと感が漂っているとエドは指摘します。
「私、試してみました」
「私は、こんなふうに考えました」
「これが私の意見です」
自分の考え、意見、行動を語る前に「私は●●しました」「これが私の●●です」というフレーズを挟むと、各段に自己主張しているように聞こえます。
その際のポイントは「私」の部分を少しゆっくりと、声をはること。
まずはここからはじめてみましょう。
Q2 みんなが言う、「自分らしさ」って何だろう?
「私は、おいしいと思っています。ビール酵母で育てたたまねぎ」
会議で意識して主語を入れて話し、一瞬みんなの注目を集めることができた晴。
しかし「私、私」と言ったはいいけど「私らしさ」がわからず自信が持てません。
エドは豊田自動車CEOの豊田章男さんの卒業スピーチを例に出します。
「私がバブソン大学の学生だった頃、自分で見出した喜びは『ドーナツ』でした。
アメリカのドーナツがこんなに素晴らしく、喜びになるなんて、思いもしませんでした。
みなさんも自分だけのドーナツを見つけてください。夢中になれるものを見つけたら、手放さないでください」
p.34
どうですか?あなたの頭の中に、揚げたてのドーナツが浮かんだはずです。
「自分らしさ」というのは難しく考えなくてもよくて、あなたにとっての、揚げたてのドーナツを探せばいいのです。
晴も過去のアルバムの中から「晴の個性」として覚えてもらえるような写真を探すと、お母さんとカレーをつくっている写真を見つけます。その写真から物語をつくるとこうなりました。
「私は小さい頃から料理が好きでした。母と台所に並んで、母が煮物をしている間にジャガイモの皮を剥いたりしていました。母に『上手ね』なんて言われると嬉しくなったものです」
そして今の状況をつけ足そう。
「今でも料理が好きです。キャベツの千切りでストレス解消をしています」
p.36
晴にとってのドーナツは「キャベツの千切り」だということがわかります。
「料理が好き」という事実よりも、「キャベツの千切りをする姿」の方が人の頭の中に映像として残りやすいのです。
豊田社長や晴のように、あなたも自分の物語をつくって自己紹介をしてみましょう。恥ずかしがらずに、自分を演出することで、人の記憶に残る人になります。
Q3「自分のこと」なのに、誰よりもうまく語れないんだ
古い写真を見て、「好きなこと」「アピールできること」を見つけた晴。それでも自分を表現し、アピールすることができず「自己紹介」が苦手だとエドに相談します。
「由来しばり」「数字しばり」「色しばり」「実績しばり」「人脈しばり」
「学校しばり」「地域しばり」「趣味しばり」「尊敬する人しばり」etc…
「自分とは、いったいどういう人間なのか?」なんて抽象的に考えても自己理解は進まないとエドは言います。
そうではなく、「〇〇しばり」で焦点を絞って、そこから滲み出てくる自分を言葉にしてみましょう。
次に「数字しばり」で考えてみよう。
「私は、1995年4月22日に生まれました。2人兄弟の次男坊です。
p.42
父が転勤族だったもので、小学校は3回転校しました。その後も引っ越しが多くて26年の人生の中で、11回も 住む場所が変わっています。そのせいか、腰が軽いです。1つのところに執着することなく、パッと動けます」
大切なのは、上手にしゃべれるかどうかではなく、「〇〇しばり」で自分をアピールする切り口をたくさん用意しておくことです。
「〇〇しばり」で出てきたものはすべてあなたのもの。本質は同じで、表現方法が違うだけなのです。
さぁ、たくさんの自分をひき出してみましょう。
おわりに
step1では「自己紹介」を通して人の印象に残る自己アピールの方法が紹介されていました。
本書は他にもstep5にわたり、言葉に「存在感」を宿すためのメソッドが用意されています。
その中でも私は、step2の語彙のレパートリーの増やし方の章でさっそく目から鱗が落ちました。
「語彙」は読書などで増えるものではなく、日常の中で言葉を探しかき集めるもの
という言葉にショックを受けると同時に、たくさん読書をしても自分に語彙が少ないと感じるのはそういう訳だったのか、なるほどと腑に落ちました。
本書はすぐに実践できる 語彙を増やすための方法や、相手を動かす説明の順番など、具体的な方法や考え方が余すところなく紹介されています。「すごい本を読んでしまった…」と思うほどに。
こんなに丁寧に、わかりやすく、実践的で、そして優しい本に出会えて私はうれしくなりました。
主人公の晴と一緒に一歩ずつ、あなたも「スルーされない存在感のある言葉」をぜひ身につけてください。
読み終えると見える世界がかわる、そんな心強い一冊です。